『本を読まない人のための出版社 サンクチュアリ出版 友友会』
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タイトルに惹かれて手にとってしまうのは、なんとなく、そのフレーズが現代人の胸の奥にある願望を衝いているからなのでしょう。書籍『会社に頼らず生きるために知っておくべきお金のこと』(泉正人著・サンクチュアリ出版 ・2011)という本。紹介されて読んでみたのですが、なかなか興味深い内容でした。著者はほぼ裸一貫の身から億単位の年収を稼いだ実績があり、現在、ファイナンシャル教育のセミナーを開いているという方です。お金というと汚いイメージがありますが、ギャンブルやFXなど危ない投資を呼びかけているものではありません。
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帯には「好きなことで稼ぐ、夢の叶え方を教えます」とありますが、じっさいにそれを叶えた人の実践例やインタヴューではなく、500万円(中身によると、自己資本金がそれだけでは済まない例もあるようですが)を元手にして商売をはじめる場合を想定して、お金の用意のしかた、動かしかたをシミュレーションして紹介したマニュアルブックです。著者の授業を書籍用に再構成したもの。比較的若い人向けに書かれた、イラストや図解が多く、横書きで読みやすい内容ですね。逆にいうと、すでになんらかの商売を軌道に乗せていて、お金の流れをたっぷりと身に沁みて知っている人には、さほど新鮮な気づきはない内容なのかもしれませんが。
ここでは五つのプランが登場します。
第一は、脱サラして立ち食いそばを経営したいサラリーマンのプラン。第二は、絵描きとして売っていきたい女性の。第三は、田舎でのんびり趣味の雑貨屋を開きたいOLの。第四は、ネットカフェで楽に稼ぎたいという大学生の。最後は、著者自身の経験にもとづく不動産投資。
いずれも商売としては素人でもできそう、あるいはやりたい、と思うようなものばかり。農業や医者・弁護士の開業のような専門性や経験を要しない起業が多いのですが、どのような業態であれ、お金の扱いについては大まかには似ているのでしょう。情報商材のように、このハウツウを知ればぜったい稼げます、お得です、とうさんくさい熱っぽさがあるわけではないので安心を。商売をはじめるにあたってのコスト感覚やリスク、資金繰りについての基礎知識や心構えなどを解いています。バランスシートについては簿記の知識があればなおわかりやすいでしょう。損益の計算なんてのは、中学数学の方程式が解ければ誰でもできます(あくまで数字の上ではという意味で)。でも、その計算から逸れてしまうお金の流れがあるからこそ商いは難しい。
気になった点は、著者がもともと黎明期のネットオークションまがいのショップを手がけていた(IT関連の企業に勤めるかたわらで副業で)というキャリアからか、世間の関心がそうなのか、コストがかからない、在庫を抱えない、というローリスクな商売として誰もが目を向けがちなネットビジネスについて言及する部分がやや多いということ。もちろん、ネットモールだとしても実際の店舗の運営と考え方はほぼ同じなのですが、楽天のテナント料や手数料が意外とかかることを本書ではじめて知りました。しかも、ネットビジネスが恐いのは現金商売と違って、収入が入るのが遅いことなので、手軽に店開きできるがたちまち資金繰りに行き詰まることが多い。e-マーケティングと聞くと敷居が低いような錯覚に陥るのですが、じっさいはなかなか難しいようですね。それに今後は停電になったら決済できないという不安もつきまといそうで。
もうひとつ気がかりな部分は、減価償却費の説明はありますが、不動産投資の場合の固定資産税だの不動産取得勢だの登記にかかる費用だのとか、修繕費だとか、それから店舗の借り上げでも地震火災保険はどうなんだろうとか、触れられていない部分もあったこと。あくまで本書は入門書なのだし、出ていくお金のことを考えればキリがないわけですが。
個人的には、独立志望だとしても、やはりあるていど社会人生活を送っていたほうが、融資を受けるにしても有利だと思っています。お店をはじめるのに、最初っから家族や親戚の懐を当てにしていると失敗するものですが、自己責任で工夫次第ではすくない資本金で利益を出すこともできなくはない、という希望を持たせてくれます。ただし基本はなにごとも続ける努力をすること、情熱と体力をもちつづけることを説いています。これは独立だろうが、雇われだろうがおなじことなのでしょうけど。
あまり露骨に利益を、効率を、と叫び出したら人生が味気ないもののように思われてしまうのですが、お金に関して現実感を持たせるためには読んでおいて損はない本でしょう。とくに将来自分のお店を持ちたい、独立したいと考えているけれど、身近に参照例がない人など。ほんとうは小さな会社でもいいので、経営者に近い位置でいろいろ学んだほうが身につくとは思います。お金の動かしかたでなく人の扱い方という点で。とくに職人肌の人は。商売をする気がなくても、お金の有効な使い道を考えさせてくれるきっかけを与えてくれそう。
「自分の価値は自分で決められます。価値を上げたければ勉強すればいいのです。それで新しい能力を身につけていくことで会社に頼らないで生きていけるようになります」という一文にあるように、なかなかポジティヴな言葉があって前向きにさせてくれる本ですね。お金に対して臆病で消極的になっている人は軽い気持ちで読んでみるといいかも。商売で得た財産は、金額よりも人脈というべきかもしれませんが。
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万葉樹 2012-01-27 21:59:51 提供:株式会社サンクチュアリ・パブリッシング
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