赤いリンゴは知恵の味?
[2010-06-07 11:12:47]
それは、ある秋の日の夕方のこと
台所仕事たけなわの私は、1歳半を少し過ぎたばかりの姉姫(当時はまだ一人っ子)が、積み木で「ご飯の配膳」をする様子をカウンターキッチンの向こうからちらちら見つつ、家事に没頭しておりました
3ヶ月ほど前くらいから、つかまり立ちをしなくても歩けるようになった姉姫は、それこそ見事な「ちらかしギャング」っぷりを見せ、棚の上にあるあらゆるものを落としてはオモチャにするものですから、今日もそうやってちらかされた物をさらに高い場所に追いやってホッと一息、ようやく台所仕事に取りかかれたばっかりなのです
とはいえ、バランスを崩してひっくり返ってコケるような事も最近ではなくなり、私が多少台所に集中していても大丈夫になってきたのは一つの成長の証そのため、調理に集中し始めた私は、カウンターキッチン越しの「監視」もそこそこに、夕ご飯の仕上げに取りかかっていたのです
そんな時
姉姫が、とことこっとキッチンの柵の前に何か持ってきたのです
そして、笑顔満面で私に向かって「あい、どーじょ」と、手にしたそれを差し出しました
かじりかけのリンゴ(丸のまま)を
「ええっ!」と思って見てみれば、届かないだろうと思って棚の上に置いておいた果物かごが見事にひっくり返り、果物が散乱しておりました
よくよく見れば、棚の下には、いつもご飯時に使っている姉姫専用赤ちゃんイスが
どうやら、「あの棚の上のカゴが取りたい」という一念でイスを運び、そして首尾良く手に入れた(というか落とした)カゴから、運良く手に入ったリンゴを、美味しくいただいてしまったようなのです
そして、嬉しさのあまり、私にご報告&お裾分けに来た、というわけ
あのリンゴの赤さ、そしてそれとは対称的な、白くてみずみずしい果肉の色
そして何より「これ、美味しいから、お母さんに分けてあげるの」と喜びに満ちあふれた姉姫の笑顔
あの顔は一生忘れられません
多分一生、姉姫に言って聞かせる事になるでしょう
あの日の、姉姫のリンゴ泥棒っぷりを
知恵を働かせて自分の力で手に入れたものを、自分で楽しみ、そして他人に分けてあげられる優しさをもった、そんな一人の幼子の話を
今でこそリンゴは一年中スーパーの棚に並びますが、秋の日が巡るたび、そして八百屋さんの軒先にリンゴが楽しそうに並び始めるたび、あの日の姉姫の満面の笑みが頭に浮かぶのです
そうして私は、心の中で微笑みながら、リンゴを一山買って帰るのです
昨年も今年も、そして来年以降もずっと
続きを見る
['close']