松谷みよ子『小説・捨てていく話』
[2011-01-31 21:29:40][
ブログ記事へ]
子供のころ、松谷みよ子のモモちゃんとあかねちゃんのシリーズが大好きだった
じゃがいもとにんじんとたまねぎとカレーのルーが、小さいモモちゃんのところへ食べてくださいとやってくるのだが、「モモちゃんは小さいからカレーはまだだめよ」とママに言われて、野菜達はえーんえーんと泣きながら走って逃げる
黒猫のプーの恋人は猫のジャム白い背中ににジャムみたいなオレンジ色の毛並が混じっている
森のくまさんがお父さんのいないモモちゃんとあかねちゃんにたまごを落とした美味しいおかゆを作ってくれる
美味しそうな料理がでてくる話ばかり覚えているのは昔から食い意地が張っていたせいか(汗)
松谷みよ子さんといえば、竜の子太郎など、民話の採集で有名な人
そして今でも大ベストセラーの0歳児のための絵本『いないいないばぁ』を書いた人でもある
その松谷さんの壮絶な私生活を小説として書いたのが『小説捨てていく話』である
いやー、怖い、そして、あまりにも文章が巧い
あるエピソードがもつ凄みを、その全てを象徴的に現す一場面を、書き表す描写の巧みさよ
夫は、演劇に情熱を傾けて劇団を主宰している自宅の敷地内に演劇の稽古場があり、そこで愛人の女優と寝起きしている愛妾同居の状態が常態化した日常なのだそのくせ、劇団の借金は全て妻任せ妻にも劇団員にも常に暴言を吐く夫破綻しかけている夫婦関係
夫が庭に(お金もないのに)立派な日本庭園を作ったときのはなし「滝」から引用してみますあまりに立派なので近所の人もやってきて、主人公の赤ちゃんをあやしながら、朝鮮のヤンパンの立派な屋敷の話などをしていくのです
「朝鮮にいましたころねえ、ヤンパンのお邸がね、主人のすむ棟、正夫人のすむ棟、第二夫人の棟、使用人の棟、いくつも建っていましてね庭もきれいでしたでも正夫人に赤ん坊が生まれると第二夫人が盗み出して殺して捨てた、なんて事件も起りましたっけ
おや、わらってる、なんてかわいい赤ちゃんなんでしょ桜色だよこの赤ちゃんはベロベロ、バア、大切になさいましよ」
出来上がったばかりの日本庭園の池に鯉や金魚を放し、滝に水を流し、それを眺めながら、親戚の消息について久しぶりにゆっくり会話をしたふたり
「滝の音がしています久しぶりに夫婦らしい時間でした
ふいに夫は立上りました
「じゃあ」
ひとこと残して出ていきました劇団の一室に夫は暮しているのです朝鮮のヤンパンの邸の話が耳によみがえりました胸がしんと冷たくなりました
のろのろと外へ出ると、滝の水を止めました御夫婦ごっこは終ったのですセットも片付けなくてはなりますまい立上って池の面に目を落とした私は口を押えました急に冷たい水を流しつづけたせいでしょうか、鯉も金魚も白い腹を返して死に絶えていました」
ええー!この一瞬で鯉も金魚も死んだの!一体、この夫婦の間の業はどこまで深いの(泣)
夫婦の語らいがなぜここまでまがまがしいのか(愕)
鯉と金魚の白い腹が目に浮かんで、読んでる側までめまいがしそうになりますですます調で書かれた文体がなぜここまで凄惨に思えるのかほんの一部でさえ、このありさまなのに、この調子で夫との離婚、元夫からの借金の依頼、夫の発作、元夫とのソビエト旅行、元夫の死、夫の墓といったことを主題として短編が続いていくのです
ああ、この一部分だけ読んでもこの小説の凄みはつとまりますまい
むかし、モモちゃんとあかねちゃんの話で、私が不思議に思った、
ママが森の魔女に「パパとママは同じ植木鉢のなかにいると二人とも枯れてしまう木なんだよ」といわれた話
この話もこの小説にできてきました
これは幼いあかねちゃんが、お父さんとお母さんが離婚することがどういうことか、画用紙で絵本にして説明してくれとママに頼んで生まれたお話だったのです
この作品のすごさは読まないと伝わりません細部が積み重なって、じわじわと、作者の複雑な心中を表すのですわかりやすいテーマが提示されるわけではありません作家が書かずにおれなかったもの、作者のいうところのヘドロがとらえどころのない姿を見せるのです
うまく説明できないのが歯がゆいですが、昔、モモちゃんとあかねちゃんのシリーズが好きだったという人がいれば、この本も手にとってもらえたら、作品の理解が深まる、、、地球のマグマほどにも深く、、、なることは請け合いです(筑摩書房、1992年)
さてさて、今日は↓に応募です
どんなりんごジュースが好きですか、というお題です
私の好きなジュースはもちろん100%、それもストレート果汁のものです
クリアタイプは発泡させてシードルになっていれば素敵ですが、ジュースで飲むなら、混濁タイプのほうが風味がよくで最高です
りんごの風味がまったりと舌にひろがり、酸味と甘みがほとぼしるように喉に流れ込む
そんなりんごジュースが好きです
濃縮還元をりんご香料でごまかしたジュースは甘いばかりで、香りがありません
思うに、りんごの風味というのはとてもはかないのでしょうねだからついつい香料が強くなってしまうのではないでしょうか
おいしいりんごジュースなら冷やさず常温で飲んだほうが、その風味を思いっきり味わえると思います
息子もりんごが大好きまだ7ヶ月なのに、本人はコップからジュースで飲もうとあくなき挑戦を続けています
皮ごと搾った「岩木山りんごジュース」無料モニター30名募集! ←参加中
続きを見る