入試直前。新しい事はせず、これまで繰り返し学習してきた問題集を解いていた。新品の時は1冊解くのに1ヶ月かかった問題集も繰り返し取りかかることで30分程で全てクリアできるようになっていた。一浪したので今年で絶対に決めたかった。気持ちを落ち着ける為にも慣れた問題集ばかり読んでいたので、飽きてしまう程すらすらと読書の様に読めた。英語、古典、歴史、どれも難なく解けた。解く、というか、読むように、確認作業だった。次に数学に取り掛かった時、なぜだか1問目から全く分からない。分からないというか、方程式が一つも思い出せない。頭が真っ白になってしまった。何度も解いて茶色くなった、マーカーだらけのヨレヨレの本が、1問目から分からない。まるで初めてその本を開いた時のように、何をどうしたら良いのかひとつも分からない。なんで？なんで？そんな筈はない。何度もやったし、解く以前に、自分にとっては内容も全部覚えている程で、一番慣れた、使いこんだ問題集なのに。焦ってきた。焦れば焦る程ますます分からない。もしこんな事が本番で起こったら時間切れになってしまうとパニックになった。その日も、次の日も、数学は1問も解けなかった。5校志願していた。心配した通り本番でも数学に手が出なく、不合格通知が自宅へ届き始めた。関東のホテルに一人で宿泊していたので聞ける人がいなかった。マイナス思考に陥っていてどうしたら良いか分からなかった。友達に電話しようかと思ったがその時は恥ずかしくて、プライドだったのか、聞けなかった。また浪人したらどうしようという不安と、ホテルで長期間一人だった事もあり、不安で気持ちが追い込まれていった。そして最後の受験校である本命前日になっていた。その晩自宅から電話がきた。不合格通知が届いているはずなのに、ご飯は食べたか、よく眠れているかと、いつもと変わらない会話だった。浪人して、受験費用も沢山かかって、受かったらまた膨大な学費がかかるし、また落ちたらどうしたらいいんだろう。それなのに朗らかに応援してくれる親に申し訳なく、でも聞きなれた優しい声にホッとし、やっぱり合格したい！と思った。姉が電話に出たので相談した。数学が・・、と。すると姉は明るい声で一言私に言ってくれた。『明日は大丈夫な気がするんだよ。私の勘て当たるんだよね』と。ただこれだけの言葉だったが、その瞬間、何故だか前へ向かう強い気持ちがわいてきた。自分は頑張ったじゃないか、1年間その自分を見てきた姉の明るい言葉に私はマインドコントロールにかかった。私は大丈夫なんだと、受験前に自分の合格を予知したかのような強い気持ちがわいてきた。そして本番、数学でパニックには陥らなかった。この問題もやったし、これもやった。お姉ちゃんが言ってた通り自分は大丈夫なはずだから大丈夫なんだと思い続けた。保険に受けた大学は全て落ちましたが、姉の一言のおかげで最終日の大本命1校のみ合格しました。あれから20年経ちますが、今でも弱気になると姉の言葉を思い出します。『大丈夫！』不安を取り除こうとしてくれた家族に感謝です。

リン 　 2013-02-25 11:45:00 提供：湘南ゼミナール