暮らし拝見 木の家 MyStyle vol.13
一級建築士である施主が描いた、カフェのようなリビング 踏みしめると、杉の足場板が空いた板の隙間同士でカタカタと乾いた音を鳴らす、何とも素足に心地いいリビングダイニング。対面式のオープンキッチンと向かい合わせに置かれた、大きなダイニングテーブルがゆったりと広がります。椅子に腰かけると、キッチンに付けた小さな飾り棚には、アロマオイルや外国製のガラス小瓶などがフレンチ雑貨店の棚のようにお洒落に並んでいて、目を楽しませてくれます。リビングの中央には螺旋階段とピアノ。その先には吹き抜けのFIX窓に映る隣地の楠木の緑がそよぎます。まるでどこかのカフェにいるようにほっこりと落ち着くこの佇まい。一級建築士の資格を持ち、大手ゼネコンで意匠設計をされていた奥様のアイディアと聞けばうなずけます。「家族や友人達とゆったりとした休日を過ごしたかったので、カフェみたいなリビングをイメージしたんです」という奥様。設計段階では、この重量木骨の家を依頼した大阪の建築会社「福田工務店」の福田社長や設計士に、自ら描いたスケッチや図面をこまめに送りイメージを伝えたといいます。また、ディティールや素材など口頭や絵では伝えきれないことは、担当者と共に街のカフェを見に行きイメージを確認しあうという徹底ぶり。こうして、より自分の思いに近い「カフェのような家」を具体化していきました。
A.吹き抜けの窓から光と楠木の緑がそそぐリビング。猫たちも居心地良さそうに寝そべる杉足場板のフローリングは、人の足にも柔らかく温かな感触。経年で板が反り上がり、色味にも味わいが出てきたことに満足している。 B.カフェの厨房をイメージしたフルオーダーのオープンキッチン。背面の棚は床と同じく杉足場板で造作し、見せる収納で温かな雰囲気を醸している。オープンキッチンにも後から棚を造作できるように設計し、飾り棚のディスプレイを楽しんでいる。 C.北欧のファブリックを掛けたダイニングテーブルがリビングにしっくり馴染む。上下に設けたスリット窓は、プライバシーを確保しながら借景と光をほどよく取り込む。風通しを良くする効果も。阪神大震災の被災経験を経て選択した重量木骨の家 Kさん家族は、阪神大震災で被災した経験があります。当時、住んでいたのは築5年の大型マンション。「大きな家具が部屋の中で飛ぶぐらいの揺れでした。私自身も、倒れてきた家具の下敷きになり、無我夢中で避難した先で診てもらったら、頭蓋骨が陥没していると言われ、言葉も出ませんでした」(奥様)
この恐ろしい経験を教訓に構造のしっかりした家を探そうと、当時の勤務先の建てた信頼のおける構造のマンションに住み替えたものの、子供の成長に伴い家を建てることを決意。今までどおり子供が通学できる場所を求めて土地探しを開始すると同時に、どんな家を建てるか検討しているときに、たまたま重量木骨の家の新聞広告を目にしたといいます。「仕事の経験から、在来工法では行われていない、構造計算をした家を建てたいと考えていました。そんなときに、木造なのに構造計算をしている家があるという広告を見てとても興味を持ちました。耐震のことを考えると、鉄骨やRCがいいという考え方もありますが、鉄骨は地震の時に揺れが大きく住宅には不向きではないかと思ったのと、RCは断熱対策をしっかり施さなければならないし、コストも高い。その点、重量木骨の家は、耐久・耐震性においては鉄骨造と同程度で、木造の利点もあり、コストも抑えられる。それに大空間・大開口の構造がつくれるのも気に入りました」(奥様)
そこで、大阪、兵庫で重量木骨の家を手がける施工店を探したところ、偶然、構造見学会を行う予定だった「福田工務店」を見つけて現場を見学。福田社長の人柄とていねいな仕事ぶり、そしてナチュラルモダンを設計ポリシーとしている点に好感を持ち、一緒に家づくりを進めたいと思い、依頼したといいます。
D.リビングと続きで広がるウッドデッキ・バルコニー。休日にはたびたびここでバーベキューを楽しんだり、天気のいい温かな日は朝食を楽しむことも。格子状の杉のフェンスが光や風を取り込みながらも、周囲との視線を遮る。 E.螺旋階段を登りきった3階のフリースペースに設けた家事スペース。背面の棚には趣味の漫画や書籍を収める書庫を造作。見せる整頓で使いやすい収納に。 F.1階の寝室は玄関横に。小さい窓や間接照明が落ち着いてリラックスした雰囲気をもたらす。 G.1階から2階へ繋がる階段は勾配をできるだけゆるやかにして、踏面を大きめに取った。シンプルなアプローチは登りやすい。 内装をラフな仕様にして
住み継ぐ過程を楽しむ家づくり通風や採光を計算し、高低差をつけて設置した小窓が外観の表情をつくるK邸。
外構スペースには、絶妙なピッチで設定された格子状のフェンスが、
趣を持たせながら漆喰風塗装仕上げの外壁を囲い、街並みにも
やさしく溶け込んでいる。カフェのようなくつろぎの空間をつくりたいという思いは、施工段階でも奥様の意向が大きく反映されています。
「私がイメージしたリビングは、職人さんからすると常識外だったようです。例えば、床材に使った杉足場板。大工さんにとって、フローリングは隙間無く張っていくのが当たり前。でも、私は先々、板が反ったり、空いてしまってもいいから、ゆるく繋いでほしいと頼みました。壁に幅木などもいらないし、階段の蹴込みも塗りっぱなしでいいと。とにかくラフに造ってほしいという私の希望に可能な限り応えてくれたのが嬉しかったですね」
整然と作り込まず、家族や友人が日々の暮らしの中で気後れすることなく、自然に傷つけたり汚したりした温もりのなかで住み継いでいきたい。そんなほっこりと和める空間を目指す奥様の思いが、そのまま家づくりに再現されたK邸。週末には、リビングと一続きとなる12畳ほどの大きなデッキバルコニーに家族、友人たちが集まりバーベキューを楽しむとか。杉足場板のリビングとバルコニーには、思い思いの好きな居場所を見つけて和む親しい人たち同士で、ほっこりとしたひとときが流れます。
福田工務店の設計士とコラボレートしてイメージを固めるために、各室のイメージラフ画をできるだけ具体的に描き起こしたという奥様。仕事の合間や休日を使って描いたパースをパソコンで送り、設計士からの提案に対して、さらに修正したい部分や希望などを言葉で書き込んで意向を伝えた。また、玄関ドアなどのディテールは建築雑誌などの切り抜きやスケッチを描いて、イメージ通りのものを製作してもらった。
壁の素材や階段の造り、カフェっぽい板のフローリングの雰囲気など、言葉や絵で伝えにくいものは、大阪・南堀江に集まるカフェを訪れ実物を見たり、後で検討できるように写真を撮ってイメージを伝えた。こうすることで、工務店と意思確認がズレずに、スムーズに家づくりを進めることができた。 H.室内のイメージを手描きして伝えた。自分のイメージを固める上でも、工務店にイメージを伝えるうえでも、この方法はとても有効。 I.設計図に細かな要望を文字で書き込むなど、指示を明確にすることで、工務店が要望を汲み上げやすくなる。 J.大阪・南堀江近辺のカフェを工務店の担当者と巡り、実物の建材やディティールを見て、採り入れたいものを一緒に確認。絵や言葉で説明するのが難しいものは、この方法が伝わりやすかった。 K.採用したい建材や設計デザインに近い建築写真を探してスクラップ。それを元にすることで、素材を探すのに役立った。 ▼設計・施工/株式会社福田工務店(FUKUDA BUILD & DESIGN)
http://www.fukuda-koumuten.co.jp/▼株式会社福田工務店 経営者のホンネ日記
http://www.mokkotsu.com/diary/?shop_id=154